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ミステリ・テニス・ハムスター・モルモットについてあれこれと……
by slycat
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一番怖いのは

少年少女の死
半七捕物帳(四) 岡本綺堂 春陽文庫

秋田で起こった少年殺害事件はただでさえ痛ましいのに、近所に住む女性が容疑者として連行され、ますます気持ちが暗澹としてしまう。今のところ、自分の娘が亡くなったのに、娘と仲良くしていた男の子が生き生きと過ごしているのを見て嫉妬した、ということになっているが実際のところはわからない。

この事件と似ているな、と思うのが、『半七捕物帳』に収められている「少年少女の死」である。語り手(綺堂)が元岡っ引きの半七老人に昔の手柄話を聞く、という設定でさまざまな事件が紹介される短編集であり、以前も「小女郎狐」について触れたことがある。この連作を読むたび、犯罪というのは今も昔も変わらないな、と思う。一応フィクションなのだが…。

「少年少女の死」では子供が犠牲となった2つの事件が描かれる。東京で自転車に乗る人が増え、家の前で小さな女の子が自転車に轢かれた、と半七が言い、しかしいくら自転車を取り締まっても一番怖いのは人間、と語り出すところから始まる。
 秋田のケースに似ているのは、最初の事件。外神田の田原屋という貸席で踊りの師匠がおさらい会を開いた。弟子が多いうえに見物客や弟子の親兄弟で大賑わいとなった中、踊り子の一人、9歳の「おてい」が行方不明となる。その子がいないと次の演し物の幕を開けることができないため、皆で手分けして探すが、見つからない。一時は神隠しではないかと思われた少女は、田原屋の縁の下から亡骸となって発見される。
 少女の頸部に巻き付いていた手拭を手がかりに半七が捕らえた犯人は、少女とは縁もゆかりもない者だった。動機らしき動機は特にない。「ああ可愛らしい子だとつくづく見惚れているうちに、……、なんだか急にむらむらっとなって、おていをそっと庭先に呼び出して、不意に絞め殺してしまったんです」。敢えて言えば動機は嫉妬、自分には許されない幸せを目の前にしたときの、咄嗟の行動だった。

秋田の事件は毎日のようにニュースで取り上げられ、「動機不明」「不可解」「鬼母」などのキーワードで一括りにされているが、本作を読んで思うのは、こういう事件は特に現代社会のひずみが生んだものではなく、もともと人間が心の奥底にもっている暗い思いが引き起こすのではなかろうか、ということだ。たとえ22世紀になっても、不幸な人間があるかぎり、不幸な事件は起こりうる。

災難はいくら避けても追っかけて来る、一番怖いのは人間。半七の言葉は、彼の時代から100年経ってもなお、ずっしりと重く、私たちに迫るのである。一番怖いのは_f0061021_1124391.jpg
by slycat | 2006-06-15 01:14 | ミステリ
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