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My First 文楽
古典芸能、興味はあるのになかなか劇場まで足を運べない…歌舞伎、能、狂言…。しかしこのたび、ようやく文楽に挑戦した。以前勤めていた会社の同僚が誘ってくれたので、もっけの幸いと飛びついた、というわけ。
国立劇場開場40周年記念ということで、演し物は通し狂言『仮名手本忠臣蔵』である。文楽に関する知識はほとんどゼロなので内心びびっていたが、友人が初めてでも大丈夫だと太鼓判を押してくれたので、何の準備もせずに出かけた。また、準備したくても難しかった。ストーリーくらい押さえておこうかと『仮名手本忠臣蔵』を探したら、書籍は軒並み絶版で、入手できそうなものは数千円もした。いいや、もう。友人が郵送してくれた資料があったので、それを読んで当日に備えた。 文楽は歌舞伎や大相撲と同様、朝から晩まで楽しめる庶民のための芸能であり、今回の『仮名手本忠臣蔵』も第1部から第3部まである。私は第3部(八段目、九段目、十一段目)だけ鑑賞させてもらった。 八段目:道行旅路の嫁入(みちゆきたびじのよめいり) 大星由良助(大石内蔵助)の息子力弥の許嫁、小浪とその義母、戸無瀬が女二人で山科の閑居に向かう場面。本来ならば贅を尽くした花嫁支度をするはずだったのに、やむを得ぬ事情で供の者も連れずに旅をしなければならない辛さと、そんな状況でも愛しい人の許に嫁ぐのだ、という娘らしい喜びの両面が語られる。 テレビで観ているときと違って、やはり迫力がある。かなり前の列だったため、人形が舞台の左右に分かれて演技をすると、右を見ればよいのか左を見ればよいのか迷い、首が痛くなってしまったが、感情の高まりを表現する足音、太夫さんたちの熱演には圧倒されるばかり。 何しろ全然知識がないのでイヤフォン・ガイドの助けを借りていたのだが、女の人形は、「ハッ」とばかりに後ろ姿を観客に見せるのが「見せ場」なのだとか。へ〜と見とれていると、通の人たちがすかさず拍手。あ、ここで拍手するもんなんだー。 ここでいったん25分の休憩。この間に慌てて夕食を食べる。友人に予め教えてもらっていたので、デパ地下でおにぎりを買って来ていた。食べ終わる前に芝居が始まってしまうと恥ずかしいので焦って詰め込んだ。 九段目:雪転し(ゆきこかし)の段 郭から酔って帰ってきた大星由良助が、力弥に雪玉を小道具に謎掛けをする場面。ここは短くまとめられた場面で、割合リラックスして観ることができた。 山科閑居(やましなかんきょ)の段 ここが本日の目玉中の目玉、「義太夫節最高の大曲」(資料より)とされており、見所、聴き所満載の場面だという。そしてその解説に偽りなく、観ている者の身体中に力が入る、凄まじい場面だった。 八段目で、野越え山越え、街道をひたむきに旅してきた小浪と戸無瀬の二人が、臨時雇いの中間を従え、盛装して山科・大星家に辿り着く。ところが、それを労うどころか、大星の妻、お石に息子の嫁にはできぬ、と言われて、はるばる遠路を来た二人は自害しようとする。そこに謎の虚無僧が現れて、さらにその虚無僧は……と息つく暇もない畳み掛け。これを人間国宝の竹本住太夫が切々と語り上げるのだから、何も知らない私でさえ、腰が抜けたような状態だった。こんなことは映画を観ているときでも経験したことがないが、物凄い肩凝りのような痛みが全身に走って、座っていられないような感じである。本当に疲れてしまった。 十一段目:花水橋引揚(はなみずばしひきあげ)の段 どっと疲れ果てた後、最後の場面は、晴れて師直の首を挙げた浪士の面々が、亡き主君の墓に向かう。ここは人形の数が多く、舞台いっぱいに並ぶのが圧巻だ。 凝った衣装、端正な人形の顔、どれをとっても数百年前にこんな精巧なものが作られていたのか、と感心するばかりだが、もちろん凄いのは人形を操作している方々で、ほんの少し人形の顔を傾けただけで悲しみ、喜びをこちらに伝える。緻密に計算された動きの美学! 教養がないのでうまく表現できないが、たっぷり堪能させてもらった。 今までずっと敬遠してきたが、文楽を支えるのは人の情や機微であり、人として当たり前の感情を共有できさえすればよいようだ。現代と比べると、多少言葉の意味に違いがあるが(なまめかしい=初々しい、とか)、意外とすんなり理解できるのがわかったのは収穫だった。声をかけてくれた友人に感謝、感謝。また観に行くぞ〜!
by slycat
| 2006-09-18 23:05
| 文楽
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