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ミステリ・テニス・ハムスター・モルモットについてあれこれと……
by slycat
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古本屋で

先だっての休日、昼食を外で食べ、ついでに散歩しながら家に帰る途中、地元の古本屋に立ち寄った。私は初めて入ったが、夫はちょくちょく覗きに行っているという。
 中古ゲームソフトなども扱う大手と違い、昔ながらの古本屋は、それぞれ地域や店主の個性が出ているようで面白い。神田に並ぶ「古書店」は何となく敷居が高そうで、あんまり中まで入らないのだが(それに実際、本が高い)、小さな町にポツンとあるような店だと、営業そのものが店主の趣味みたいなので、気軽に入れる。

地元の古本屋、店の外には文庫本が並んでおり、店内も、入り口に近いほうの本はまぁ、普通というか、いかにも近所の人が「もう読まないから」と売っていったような小説などが並べてある。中には「校閲用」のハンコが表紙に押されているものがあったりして、著者が売ったのか、校正者か、と持ち込んだ人の顔が見たくなる。

面白そうな本が置いてあるのは奥のほうである。あんまり状態のよいものはないのだが、明治、大正時代の文芸書、戦時中らしい広告が入った何かの会誌、小難しそうな専門書などが割合無造作な感じで棚に詰まっている。
 演劇・芸能関係の本も奥である。古典芸能というとやはり歌舞伎関連が多いが文楽の本もちょっぴりあった。値段を見たら400〜500円。ちょっとくたびれてはいるが、まぁいいや安いから、と買ってみた。

1冊目は『文楽説き語り−言うて暮しているうちに』(創元社、1985年)。竹本住大夫さんが語り、和多田 勝という人が取材・構成を担当。住大夫さんが七代目を襲名した年なので、腰巻には「文字大夫改め」と書かれている。Amazonなどで簡単に入手でき、慌てて買わなければならないほど珍しい本というわけではないが、散歩の途中で出合ったのも何かの縁だと思う。
 住大夫さんには2003年に出版された『文楽のこころを語る』(文藝春秋)という本もあり、そちらも楽しんで読ませてもらったが、この本も面白い。幼い頃のちょっとしたエピソードや奥様との馴れ初めなどが生き生きと語られていて、偉大な大夫さんを身近に感じた。

戦後、文楽の世界にも労働組合のようなものができて、三和会(組合派)と因会(松竹=会社の側)に分かれてしまい、小屋がないので東京の三越で公演していた頃のお話などは、特に興味深かった。
 人形遣いが足りないので、太夫が端役の人形の左や足を持つ。元々人形を遣う修業はしていないのだから大変だが、不思議と名人の浄瑠璃だと自然に人形を動かすことができ、若手の浄瑠璃のときはギクシャクしてしまったそうである。「ええ浄瑠璃語らんと人形に悪いなあ……つくづくそう思いました」。
 さらっと語っていらっしゃるが、このような体験も芸に引きつけて学んでしまうあたり、さすがに住大夫さんと感心しきり。また、太夫さんの語りと人形の動きの関係というものについても考えさせられ、収穫だった。
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2冊目は、『文楽−芸と人』(安藤鶴夫 著、朝日新聞社、1980年)。私は安藤鶴夫という人のことを全然知らないのだが、八代目竹本都大夫の息子で、自身も義太夫の修業経験があるそうだ。収録されている「文楽 日本の伝統」で文楽の歴史を知ることができ、「古靱芸談」「桐竹紋十郎」は、ちょうど住大夫さんのお話ともだぶる時代のことが書かれていて、これまた面白く読ませてもらった。
 とにかく私は文楽のことを何も知らないので、出てくるエピソードはみんな面白い。人形遣いの初代桐竹紋十郎がまだ人形の足を担当していた頃、忠臣蔵「山科閑居の段」に出てくる下女、りんの役を振ってもらい、何とか客席を沸かせようと、太夫さんの協力を得て自分で動きを考えたところこれが大当たり、その後は歌舞伎でも「りん」の役は相当な役者の出るご馳走役になった……こういうのを読むとわくわくする。

また、ちょうど住大夫さんが三和会で東京公演をこなしていた頃、三和会の会長を務めていた二代目紋十郎さんについて書かれた箇所にもぐっときた。
 著者の安藤氏は、紋十郎さんの芸が大嫌いで随分厳しく批判してきたらしいのだが、芸が変わったと感じてからは熱烈に好きになったという(安藤氏というのは、どうもそういう好き嫌いの激しい人だったらしく、嫌いな芸人についてはクソミソに批判したようだ)。この2人がラジオ番組で対談をしたとき、なぜ芸が変わったのかとの問いに対して、紋十郎さんは「センセデンガナ、センセがいつもいつもわたしを、ぼろくそに書きゃはったためですがな」と言ったそうだ。その安藤氏があるとき、初めて彼を褒める記事を書いたので、紋十郎さんはそれまでの自分の芸を反省したのだ、と言ったのだという。
 しかし著者は、自分の記事が彼の芸を変えたのではなく、三和会での苦しい体験の末に芸が変わったのだと後に気づいた、と書き、三和会のことを詳細に記すことで紋十郎さんの苦労を読者に伝えている。批評される側から見れば相当イヤな奴だったろうが、一方で素直な人物だったんだな、と思う。
古本屋で_f0061021_392456.jpg


この店の奥には越路大夫が語る『菅原伝授手習鑑』「寺子屋の段」のカセットテープなども置かれていて、近所にどなたか、文楽好きの人が住んでいたのだろうか、どうして手放したんだろうか、などと考えた。何しろ私はなかなかモノを捨てられない、手放せない人間なので、ちょっと気になる。
 新刊本にはない「手垢」の向こうにどんな人がいたのか、いろいろ想像するのも古本屋を覗く面白さなのだろう。次の休みにも、また行ってみようかな。
by slycat | 2007-12-05 03:30 | 文楽
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