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ミステリ・テニス・ハムスター・モルモットについてあれこれと……
by slycat
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白い雌ライオン:陰謀に立ち向かう田舎刑事

白い雌ライオン
ヘニング・マンケル/柳沢由美子 訳 創元推理文庫
〜クルト・ヴァランダー・シリーズ〜

日本人にはわかりにくいが、多くの外国語には女性名詞と男性名詞がある。本書の原題は“DEN VITA LEJONINNAN”で日本語タイトルは恐らく直訳だろう。LEJONINNANが雌ライオンと思われる(スウェーデン語の辞書は、生憎持っていない)。白いライオンというとすぐにレオやパンジャを思い出すのだが、ルッキオのイメージだな、などと思った(漫画では確か成長した姿は描かれていなかったようだが)。閑話休題。

スウェーデン・スコーネ地方、イースタ署の田舎警部、ヴァランダー刑事を主人公とするシリーズの3作目である。1作目はリアルな警察小説、2作目はスパイ・冒険小説の味わいだったが、今回はさらにスケールが大きくなり、南アフリカのアパルトヘイト問題が絡んだ巨大な陰謀にヴァランダーが挑む。…というか巻き込まれることになる。
白い雌ライオン:陰謀に立ち向かう田舎刑事_f0061021_35871.jpg



事件の発端は、田舎警察にふさわしく平凡な主婦の失踪である。だが、彼女の失踪を届けてきた夫の話を聞くうちに、すぐにこれはただの失踪ではない、とヴァランダーは直感する。このあたりがプロフェッショナル、言っちゃあ何だがストーカー問題をなおざりにしたがために犠牲者を出したどこかの国の警察とは全然違う。失踪者が二児の母で幸せな家庭の主婦であり、敬虔なキリスト教信者である、と知った途端、ヴァランダーは胃がひっくり返りそうになるのだ。早速信頼する部下2人とともに捜査を開始するが、事件は田舎警察のレベルをはるかに超えた、複雑なものだった。
 ただごとではないらしい、と失踪者の周囲を調査し始めるが、最初はもちろん背後に国際的陰謀があるなど知る由もないため、捜査の方向は的外れである。間違った人間を追う様子も丁寧に描かれており、ヴァランダーの捜査戦術が決してスーパーマンのそれではなく、実地で経験を積んできたものだということが、かえってよく理解できるようになっている。そもそも、ポワロやホームズと違い彼はあくまでも警官なので、証拠を固める、聞き込みをする、容疑者を警察署に呼び出す、という行動は、あくまでも犯人逮捕という結果に結びつかなければならない。謎解きを楽しむといった知のゲームではないのである。警官が主人公であれば当たり前のことなのだが、入手した事実を積み重ねて真実に辿り着こうとする試行錯誤が素直に書かれていることが、従来の刑事ものとは違った味わいを与えているように思う。

前作に引き続き、スヴェードヴェリとマーティンソンの2人がヴァランダーを助けるが、彼はそれぞれの個性をよく把握して得意な分野にあたらせている。スヴェードヴェリはコツコツと情報を集め、それを整理することで事件の核心に迫るタイプ。時には指揮の誤りを批判することもためらわない。マーティンソンはアイディアマン、事件が行き詰まれば思いがけない発言でヴァランダーにヒントを与えてくれる。
 上司である署長のビュルクもユニークな人物だ。組織の秩序を重んじるが、大抵は現場のやり方を尊重してくれ、ヴァランダーが突飛なことをやらかしても信頼を寄せてくれている。主人公だけでなく、彼を取り巻く人々にもだんだん馴染んでいくのがシリーズもののよさであるが、本シリーズも例外ではなく、癖のある人物が揃って魅力を放っているのが面白い。

本シリーズは毎回、現代社会が抱える諸問題を読者に突きつけてくるが、それだけではメッセージ色が鼻についてしまう。本書があざとくならず、読んで面白い小説になっているのは、登場人物たちの豊かな人間味に負うところが大きい。しかも、悲惨な状況下で事件を解決に導き、主人公を救ってくれるものは常に人の情である、ということが、読後に強い印象を与える。
 本書では、南アフリカから来た暗殺者、ヴィクトール・マバシャとの出会いや、こじれていた父親・娘との関係改善、10年ぶりに復活する友情、スヴェードヴェリの職務を越えた協力などが、見えない武器となってヴァランダーを支えている。作者が一番歌いたいのは、人間讃歌なのかもしれない。
by slycat | 2006-02-22 03:06 | ミステリ
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