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ミステリ・テニス・ハムスター・モルモットについてあれこれと……
by slycat
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スウェーデンの警察小説:殺人者の顔

殺人者の顔
ヘニング・マンケル/柳沢由美子 訳 創元推理文庫
〜クルト・ヴァランダー・シリーズ〜

スウェーデンの警察小説といえば、マルティン・ベック・シリーズ。ミステリ・ファンなら大抵の人が思い浮かべるはずだ。本書を手にするまで、実は「本家」のマルティン・ベックすら読んだことがなかった。この本があまりにも面白かったので、次々に続きを読みたかったが、出合った時点で3冊しか上梓されていなかったので、結局本家のほうを先に全部読んでしまった。
 英語でも難しいのにスウェーデン語となるとお手上げのため、翻訳されたものを読むしかない。クルト・ヴァランダー・シリーズは5作残っているが、この先東京創元社が心変わりしないともかぎらない。そこで勝手にここでファン・クラブを立ち上げ、全9作が世に出るようエールを送ることにした。なるべく話の筋に触れないよう注意しながら、本シリーズの魅力をご紹介してみたい。スウェーデンの警察小説:殺人者の顔_f0061021_1815548.jpg



 本シリーズの主人公はクルト・ヴァランダー。スウェーデン、スコーネ地方イースタ署の刑事である。40代、運動不足で太り気味、妻は3ヵ月前に家を出て行き、19歳の娘とは意見が合わない。老いた父親ともうまくいっていない。これだけでも十分魅力がないのだが、悲惨な事件に遭遇すると気分が悪くなる、酒酔い運転を同僚に見つかる、女性検事を口説こうとして平手打ちを喰らう……、これでもか、これでもかとマイナス要素が出てきて、正直これじゃ最後まで読めないかもしれないと思った。ところが、ヘニング・マンケルという作家は、この駄目駄目男に唯一無比の美点を与えていた。それは「いい警官」だということである。
 いつか別途書きたいと思うが、英国にはピーター・ダイアモンドという刑事がいる。また、米国にはリロイ・パウダーという刑事がおり、彼らに共通しているのが、自らの職務において超プロフェッショナルだということだ。刑事が犯罪捜査のプロであるのは当たり前過ぎて馬鹿馬鹿しいと言われそうだが、彼らのプロ振りは、フツーのことは何もできない、というくらい徹底している。クルトも同じだ。事件には一所懸命立ち向かうが、人生において大事なことにはうまく対処できない。
 それでも、英米の2人はそれなりに幸福な毎日を送っている。2人とも仕事を愛し、満足感を得ている。可哀相なのはクルトで、彼の場合、夢中で事件に当たっているときはよいのだが、独りになると、本当にこれでよいのか自問自答せずにはいられない。犯罪の質が変わってきたと感じ、新しい時代には新しいタイプの警官が必要なのかもしれない、と思う。実はこの悩みっぷりが本書の最大の魅力で、主人公の駄目さ加減に辟易しながら読み進むうち、ついつい応援せずにはいられなくなってくるのだ。
 警察小説に肝腎な、事件の意外性、捜査手順、お役所事情などの描き方も見逃せない。誰の恨みも買いそうにない農家の老夫婦がいきなり惨殺される、ショッキングな幕開け。捜査チームがそれぞれの役割を果たし、情報を収集していく地道な道のり。見当はずれな方向に進んだ場合の軌道修正。この過程が丁寧に描かれ、読み応えあるものとなっている。
 もう一つ、ミステリ、警察小説といったジャンルを超えて作家が読者に問いかけたもの、これが読後にじわじわと効いてくるところが本書のさらなる魅力である。社会が成熟し、これ以上進歩が望めない状態になったとき、誰が被害者となるのか、個人の幸せはどんなかたちで実現するのか。希望が見えない時代に、誇りを失わず生きるにはどうすればよいのか。ただでさえ悩み多きおじさんにこんな大命題を突きつけて、作者も意地が悪い。
 ヴァランダー刑事とともに事件を追ううちに、いつかあなたも彼を愛するようになる、はずだ。
by slycat | 2006-02-04 10:21 | ミステリ
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